中学校でプログラミングはどんな風に行われてるのでしょうか。
友人が技術の先生をしていて、よくプログラミングの関係で話を聞くのですが、その友人の話を含めつつ、中学校のプログラミング教育について現状や問題点について書いていきます。ちょっと長くなって、いつもよりも真面目で面白くない文になっちゃいますが、これを読めば今現実に起こっている中学校でのプログラミング教育の問題点が分かると思います。
中学校でのプログラミングの学習は、主として技術・家庭(技術分野)で行われています。本来は小学校と同様に、各教科でプログラミング的思考を養うような指導をしていかなくてはいけないと書かれてはいますが、現実には中学校では技術の授業でしか行われていないのが現状でしょう。
技術の授業では、平成20年(2008年)告示の学習指導要領(日本の教育の目標や大まかな内容を示したもの)で、それまで選択内容だった「プログラムによる計測・制御」が必修化され、プログラミング教育が本格的にスタートしました。
また、現在のカリキュラムである平成29年(2017年)告示の学習指導要領では、「プログラムによる計測・制御」が「計測・制御のプログラミングによる問題解決」と一歩踏み込んだ内容となりました。
加えて、以前は「ディジタル作品の設計・制作」という内容だったものが「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題解決」となり、プログラミングに関する内容が拡充されています。
高校の「情報Ⅰ」が必修化され、かつ、大学入学共通試験に必修科目として出題される以上、小学校と高校を橋渡しする中学校のプログラミング教育における役割は決して小さくありません。
しかし、そこには大きな課題や問題が含まれています。
保護者の方、ぜひこの記事をご覧になった後、中学校のプログラミングの授業はどんなことが行われているのかお子さんに聞いてみてください。面白いことが分かるかもしれません。
中学校におけるプログラミング教育の歴史
スタートは平成元年告示の学習指導要領
実は、日本の中学校におけるプログラミング教育の歴史は意外に古く、平成元年告示の中学校学習指導要領に「プログラムの機能を知り、簡単なプログラムの作成ができること」と記載があります。
ですが、必修の内容ではなかったため、学校の授業で取り扱われることはほとんど無かったと言ってもよいでしょう。
平成10年告示の学習指導要領でも選択内容
次の学習指導要領の改訂は平成10年です。この指導要領では「プログラムと計測・制御」という項目が起こされましたが、これもまた選択授業でした。
この年から技術の授業の時数が減り、3年生で70~105時間あったものが35時間に減少しました。
当然、必修内容に時間を取られ、情報の学習を行ったとしてもプログラミングを指導している先生はほとんどいなかったと考えられます。
プログラミング教育必修化は平成20年告示の学習指導要領から
続いての学習指導要領改訂は平成20年です。この学習指導要領からプログラミングに関する内容が必修化され、全国の技術の先生たちがその準備に追われました。
なにせ自分たちはプログラミング教育を受けたことがないのです。受けたことがないからイメージがつかない、何をやればいいかわからない、どうやって教えたらいいか見当もつかない、そんな状態だったそうです。
文部科学省もプログラミング教育に関する情報を広めたり、教材会社も簡単にプログラミングが学習できるキット教材を開発して、なんとかして技術の授業の中でプログラミングを教えられるよう環境の整備などを行ってきました。
現行の学習指導要領では「双方向性」がキーワード
そして現行の平成29年告示の学習指導要領では、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題解決」がさらに必修化されたのです。
現場の先生たちはさらに混乱しました。「双方向性って何だ?」「チャットとかできるアプリを開発できればいいの?」「双方向だから、人と人が情報をやり取りしなきゃならないの?」などなど、これもまたどんな指導をしたらよいかイメージがつかない状況だったのです。
現状、ビジュアルプログラミング言語であるScratchを利用して双方向性のあるコンテンツプログラミングを指導している学校が多いと聞いています。
しかし、本当にそれで十分なのでしょうか。
小学校のプログラミング必修化による課題
小学校でプログラミングの学習が必修化されました。小学校でのプログラミングについては、各教科の中や総合的な学習の時間で学習する旨が示されています。
プログラミング教育ポータルでは、様々なプログラミング教育の内容が掲載され、小学校の先生の参考となる実践が数多く載っています。
そこで使われている言語がビジュアルプログラミング言語であるScratchや、Scratchを改造した形式のブロックで組み上げる言語を利用してるものが多いです。
つまり、小学校段階でブロック形式のプログラミングは学習していて、今後、ビジュアルプログラミング言語はマスターしている小学生が中学校へと上がってくることが予想されています。
そのような状況で、内容の重複や生徒の学習意欲の面などを考慮すると本当に今後、中学校でもビジュアルプログラミング言語を扱うことが適切であるのか疑問が残ります。
高校の「情報Ⅰ」必修化による中学校の課題
2022年(令和4年)から高校での「情報Ⅰ」が必修化され、すべての生徒がプログラミングを学ぶこととなりました。こうなったことで大きな問題が生まれました。
中学校で学習する内容は多くの学校でビジュアルプログラミング言語ですが、高校の「情報Ⅰ」では多くの学校でテキストプログラミング言語を利用することが前提となっています。
これは大学入学共通テスト「情報Ⅰ」でテキストプログラミングを学習していないと解くことが難しい問題が出題されることが関係しており、その言語はJavaScriptやPythonなどが想定されているのです。
つまり、それまでビジュアルプログラミング言語しか学んだことのない多くの生徒が、いきなり高校に入学してテキストプログラミング言語にふれます。
そのギャップは大きいでしょう。JavaScriptを学習するためには、必要最低限のHTMLやCSSの知識が必要になる場面が多いですが、その学習まで担保できるのでしょうか。
少ない学習時間の中で、プログラミング以外にもデータサイエンスなどの基礎を学習しなければいけない「情報Ⅰ」の中で、JavaScriptやPythonに関してどの程度の時間扱うことができるのか疑問が残ります。
つまり、小学校と高校の間にある中学校の授業で、HTMLやCSSなどのテキストプログラミングの基礎となる内容や、JavaScriptやPythonなどの基礎的な内容を扱っていくことが今後より一層求められてくるものと予想されるのです。
あなたの学校の「技術の先生」は本当に「技術の先生」ですか?
小規模校の先生配置数による大問題
これはどういうことかと言うと、特に生徒数の少ない小規模校でよく起こるのですが、学校はその制度上、生徒数(学級数)に応じて先生の配置の数が決まっています。
つまり、生徒数が少なければ配置される先生の配置数も少なくなります。そうすると、「国語の先生はしっかりと免許を持った先生が教えてくれないと困る」「数学もそうだ」「社会も」「入試に関連する教科は大事だから免許を持った先生を配置しよう」となるのが人情ってもんですね。
こうなると、必然的に高校入試に関係ない技術の先生の配置は後回しでも仕方ないとなります。つまり、技術の免許を持った先生が配置できない、ということになります。当然ですね。
履修漏れしないために苦肉の策
ですが、学習指導要領で技術の授業をやりなさい、と規定されているのですから、授業は開設しなくてはいけません。開設しないと「履修漏れ」となって大変なことになっちゃいます。
ここでウルトラC(古いw)の登場です。なんと「技術の臨時免許を交付するから、数学の○○先生、技術の授業お願い」と年度当初に校長先生からお願い(命令?)されるのです。
技術の免許を持っていない先生が「臨時免許」の形で免許を交付してもらって、免許外の授業を教えるというミラクルが起こります。
右の表は「免許外教科担任の許可件数」を表にしたものですが、圧倒的に「技術」と「家庭」が免許外指導の件数が多いのが分かります。
これには上記の小規模校のために技術の先生が配置できないという問題に加え、教員養成の問題など様々な要因がありますが、とにかく他の教科に比べて免許外指導が横行している様子が現れているのです。
これをされた数学の○○先生は慌てふためきます。「いや、技術なんて教えたことないし!」「木工や電子工作はやったことあるからなんとなくイメージできるけど、プログラミングは分からん!」となるケースが多くの小規模校で起こります。年度末、年度初めの風物詩です。
免許を持った技術の先生でもこのプログラミングの指導は手を焼いている状況なのに、免許外で指導しなければならない先生のその負担たるや、想像に難くありません。
心中お察し申し上げますが、これは生徒にとっても悲劇です。大学入試に「情報Ⅰ」が必修化されるのにも関わらず、しっかりとしたプログラミングの学習ができるかわからない状況が生まれるのですから、本当にこれはまずいのではないかと考えられます。
中学校技術科の授業時数の少なさ
中学校の技術の授業は、実は「技術・家庭」という「技術」と「家庭」が2つで1つの教科です。これには戦前、戦後の技術教育、家庭科教育の歴史が深く関わってくるのですが、それは長くなるので省略します。
授業時数は中学1年生・2年生は年間70時間、中学3年生は年間35時間です。
週1回授業を行う計算で35時間が配当されますから、中学1年生や2年生は技術の授業は週2回あるんだな、と思った方、残念!それは間違いです。
先程述べた通り、「技術」と「家庭」は2つで1つの教科です。つまり、1年生、2年生の70時間を技術と家庭で2つに割って、35時間ずつ、つまり週1回しかそれぞれ授業はありません。3年生なんか17.5時間、つまり2週に1回しか授業ができないのです。
英語なんかは年間140時間あって、他の教科と時数を割るなんてことはありませんから、週4回も授業があります。
つまり、中学校3年間で87.5時間しか技術の授業は行えないのです。
加えて、もうひとつ落とし穴があります。技術の内容です。技術は「材料と加工」「生物育成」「エネルギー変換」「情報」という4つの内容を履修させなくてはいけないと規定されています。
3年間で87.5時間しかない技術の授業で4つの内容を教えなくてはいけないので、必然的にプログラミングに関わる「情報」にかけられる時数は少なくなります。これでは十分な学習時間を確保するこが難しいことが容易に想像できるでしょう。
系統性の問題
小学校の内容とも関わってきますが、例えば家庭科は小学校5年生からスタートして、高校でも少なくとも2単位分、約6年間家庭科の学習をしていきます。
しかし情報はというと、小学校でも必修化はされましたが、教科になっていないので学習の内容がしっかりと決まっていません。実質、学校や教科を担当する先生の裁量にまかされている状態です。
これでは、十分にプログラミング教育がなされるとは到底思えません。
また、複数の小学校の児童が一つの中学校に集まるという形になる学校もあります。
そうなると、小学校によって指導の内容に差が生まれているため、中学校でプログラミング教育をスタートする際に問題が起こります。
「これ習ってるしょ?」「はい!」「いいえ^^;」
こうなると、習っている人は小学校でやった内容をまたやらなくてはいけませんし、「いいえ」の子たちを置いて難しい内容をいきなりやるわけにはいきません。
そういったところにもプログラミング教育の難しさが転がっているのです。
やはり、しっかりと小・中も「情報」を教科化して、系統立てて指導できる体制を整えていくことが必要なのではないでしょうか。
まとめ
以上のように、中学校の技術の授業における課題や問題点は次のようになります。
- 小学校必修化によって、中学校ではテキストプログラミング言語の指導が今後、求められてくるようになるが、先生がその対応ができるかという問題。
- 高校で「情報Ⅰ」が必修化されたが、小中学校のビジュアルプログラミング言語とギャップが大きすぎ、生徒がついていけないという問題。
- 免許外指導が横行している問題。ただでさえ指導が大変なプログラミングの指導を、技術の免許を持っていない先生が教えるのは難しいのではないか。
- 中学校技術の授業時数が少なすぎて、十分に技術の授業でプログラミングに関する指導が行えない問題。
- 小学校でプログラミングの指導が必修化されたが、内容は学校や教科担当の裁量にまかされているため、学校や学年などで大きな差がうまれている問題。系統的な指導には、やはり教科化が必要である。
これらの問題を解消して、日本におけるプログラミング教育がより充実して、世界に追いつけ追い越せになるよう、保護者としてプログラミング教育の充実を願わずにはいられません。
ましてや、高校入試で「情報Ⅰ」が必修になっているのに、中学校で「情報」が教科化されていないこの状況は、今後改善されなければならない大問題なのではないでしょうか。
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